東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)152号 判決
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〔編注〕一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三十四年九月一日、「ベアリングとギヤの取付装置」につき実用新案登録出願をし、昭和三十六年十一月二十七日出願公告されたが、株式会社本田技術研究所よりの登録異議申立があり、昭和三十八年四月二日拒絶査定を受けたので、同年五月二十三日、これに対する抗告審判を請求し、同年抗告審判第四四七号事件として審理されたが、昭和四十一年八月十六日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年九月十七日原告に送達された。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件における争点が本願考案の要旨を原告の提出した訂正案(その内容が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。)のとおり訂正した場合、引用例記載のものから容易に推考しうるの域を脱するか否かにあることは、本件における当事者双方の主張とくに原告の主張に徴し明らかなところである。
よつて、まず、この点につき審究するに、以下に詳説するとおり、訂正案と引用例記載のものとを対比した場合、訂正案は、その構成上及び作用効果上の若干の差異にかかわらず、なお引用例記載のものから当業者の容易に推考しうる程度のものとみるを相当とするから、本願考案は、その要旨を訂正案のとおり訂正した場合においても、なお、引用例の記載から容易に推考しうる程度のものというべきである。すなわち、
訂正案の内容が、原告主張のとおり、
(1) 一個のベアリングを構成する単一のベアリング外環3に二条のストリップリング溝1、2を刻設し、
(2) この両ストップリング溝1、2間に位置してギヤ4の内孔5を嵌入するとともに、(3) 両溝1、2にストップリング6、6'を嵌入してなる単一のベアリングとギヤの取付装置
であることは、このような構成であることに伴い訂正案においては、原告主張の作用効果を奏することは、明らかであるところ、他方、引用例には、訂正案の要旨と対応して抽記すれば、
(1) カラーを挾む二個のベアリング外環3、3にストップリング溝1、2をそれぞれ一条ずつ設け、
(2) 両ストップリング溝1、2間にギヤ4の内孔を嵌入し、
(3) ストップリング溝1、2間には、ストップリング6、6'をそれぞれ嵌入してなるベアリングとギヤの取付装置
が図示されており、さらに、カラーを挾んだ二個のベアリングよりなる軸受装置が、軸に段部及びナットにより取り付けられている構造が図示されており、これによれば、引用例記載の ものにおいては、ギヤは、軸に軸方向に移動しないように取り付けられている二個のベアリング外環に、ストップリングにより軸方向に移動しないように装着されていることが明らかである。
いま両者の構成を対比するに、両者は、ベアリングの外環に設けられた二条のストップリング溝間にギヤの内孔を嵌合し、ストップリング溝にストップリングを嵌入してギヤの両側を挾着するようにしている点において構成を同じくし、ただ、
(1) 訂正案においては、軸受装置は、単一のベアリングで構成されているのに対し、引用例のものにおいては、二個のベアリングで構成され、かつ、これらの間にカラーが介在する点及び
(2) 訂正案においては、ストップリング溝は、単一のベアリングに二条設けられているのに対し、引用例のものにおいては、二個のベアリングに各一条ずつ設けられている点
において相違し、訂正案においては、このような構成をとつたことに伴い、原告主張のような効果を奏することは明らかであるが、引用例のものにおいても、二個のベアリングを単一にすることは、技術常識上普通に行なわれる設計変更とみるを相当し、この場合、ストップリングによりギヤをベアリングに軸方向に移動しないように取り付けるには、この単一のベアリングの外環に二条のストップリング溝を刻設し、これらの間に位置してギヤの内孔を嵌入し、両溝にストップリングをそれぞれ嵌入しなければならないことは、この種装置の設計上、きわめて見易いところであり、このような構成とした場合、ギヤとベアリングとは一体的のものとして取り扱うことができることはいうまでもないことであるから、その結果、軸との組立、分解が容易であり、かつ、修理用品として便利に取り扱うことができることもまたいうまでもなく、その限りにおいて、訂正案の奏する作用効果と選ぶところがないものということができる。
以上説示のとおりであるから、訂正案は、引用例記載のものから、当業者の容易に推考しうる程度のものとみるほかはない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、進んで爾余の点について判断を用いるまでもなく、理由がないものといわざるをえない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)